設立趣意書
設立趣意書
R6能登半島地震の現地で、ある被災者から「それ、知らなかった。どうして、それを教えておいてくれなかったの」という言葉を聞くこととなりました。このことが、このプロジェクト、団体を立ち上げる源になりました。
東日本大震災から30年を迎える2041年に向けて、震災の記憶は大きな転機を迎えようとしています。 直接経験した人々が少しずつ減っていく一方で、震災があぶり出した課題は、いまなお地域や社会の足元に、静かに、しかし確かに続いています。
震災の記憶をめぐっては、これまで、追悼、支援、教訓化、伝承といった多くの実践が積み重ねられてきました。しかしその一方で、そのあいだにあった時間、語られにくいまま取り残されてきた記憶、ひとりきりになってきた経験は、十分に掬い取られてきたとは言いがたい現実があります。声にならなかったもの、誰にも手渡されぬまま心の底に沈んでいったものにもまた、震災の真実の一部が宿っているはずです。
記録は、残すだけでは継承されません。先の能登の方のことはもとより、各地に残る板碑のように、被災の経験を渾身の思いと力を込めて遺した記録であっても、それを語り、甦らせる人がいなければ、やがて遠いものになっていきます。記録は、それにふれ、読み、声にし、たどり直す営みがあってはじめて、「活きた記憶」としてもう一度、人々のあいだに立ち上がります。
本プロジェクトがめざす『風化』とは、記憶が必要以上に薄れていくことではありません。
震災の経験や、そこで見えてきた課題が、殊更語らずとも生活の中に息づいている状態へ向かうことです。記憶が社会の内側に根づき、暮らしや地域のふるまいの中に、いつしか息づいている。そのようなかたちで受け継がれていくことを目指します。
※風化:徳をもって教化(内面化)すること(広辞苑 第7版/カッコ内は佐藤)
私たちが立ち上げる TOHOKU2041 Project は、そうした記憶を「記録」「再生」『風化』の三つの実践によって受け渡し、受取人の想像力から始まる伝承を通して、震災の経験を社会の内側に根づかせていくための任意団体です。
本団体が目指すのは、単に記憶を保存することではありません。誰かの経験が別の誰かに届き、その受け取りが次の差し出しへとつながっていく循環、すなわち「記憶の螺旋階段」を育てることです。 その螺旋階段の途上で、震災の経験は、過去の出来事として閉じられるのではなく、今なお続く地域課題や社会課題として、私たちの生の中にとどまり続けます。
本プロジェクトでは、「3月16日の私の日記」「『記憶の中の住まい』ツアー」「5日目の約束の場所」という三つの柱を構想しており、それぞれを「記録」「再生」『風化』の実践として位置づけています。 それらは別々の事業であるだけでなく、ひとつの記憶が、記録され、再生され、やがて暮らしの内側へとしみ込んでいく道筋でもあります。
TOHOKU2041 Project は、継承の壁といわれる「発災から30年」という、ひとつの通過点を名称に取り入れ、2041年という節目に向かう長い時間を見据えながら、東北から、記憶の受け渡しの新たなかたちを育てていきます。
そして、 「(大変なこともあったけれど)みなさんのお陰でいい人生だった」 と、誰もがこのひとことを言える社会へ向かうための、小さくとも確かな実践を、ひとつずつ積み重ねていきます。
以上の趣旨により、ここに TOHOKU2041 Project を設立します。
令和8年3月16日
TOHOKU2041 Project 代表 佐藤 敏行